ニュースの概要
SoftBank Groupとスイスの重電大手ABBが進める約54億ドル規模のロボティクス関連取引が、壁に突き当たっています。中国当局で外国投資の安全審査を担う機関が11月5日に手続きを止めたためです。BloombergとReutersの報道によれば、両社とアドバイザーは、中国事業を買収の対象から外す形で契約を成立させる道を探っています。ただし、これは介護ロボットだけの案件ではなく、産業用を含む広いロボット事業の取引です。それでも、ロボットを使う側の産業や、人手不足に悩む介護の現場にとって、供給網と技術の持ち主が誰になるかは無関係ではありません。
引用元: SoftBankとABB、中国事業を切り離してロボティクス買収の成立を模索(Reuters)
分析・見解
審査停止が突きつけた、中国市場という大きな代償
この取引で最も重いのは、価格ではなく審査の停止という事実である。産業用ロボットの世界では、中国が単独で世界の新規設置台数のおよそ半分を占めてきた。ABBにとっても中国は、工場、販売網、顧客が集まる最大級の拠点である。そこを外せば、買収対象の価値は当然目減りする。
それでも切り離し案が浮上したのは、取引全体が流れるよりは、一部を削ってでも成立させたほうがよいという計算が働くからだ。
地政学の網に、ロボットが入ってきた
これまで国家間の審査が厳しかったのは、半導体や通信機器、データを扱う企業だった。ロボットは機械の腕であると同時に、カメラと人工知能を積んで現場のデータを集める装置でもある。工場の稼働状況や介護施設の映像が機器を通じて外へ出るなら、各国が安全保障の問題として扱うのは自然な流れだ。
SoftBankは過去に英Armの買収で、半導体の設計図を握った経験がある。次にロボットの頭脳と体を揃えようとしている、と読むのが筋だろう。
中国を外した会社は、何を失い何を守れるか
切り離しには利点と欠点がある。利点は、審査の不確実さから取引を解放できる点だ。中国当局の判断を待たずに他の地域の事業を確定できる。欠点は、中国の生産拠点や現地の部品調達力が使えなくなる点である。ロボットは部品の多くを世界的な供給網に頼るため、一部の工場を失うと原価と納期に響く。
さらに、中国事業が別会社として残れば、そこが将来の競合になる可能性もある。ABBが中国部分を持ち続けるのか、第三者へ売るのかで、市場の力関係は大きく変わる。
介護や高齢化対応のロボットには、遠回りで効いてくる
介護ロボットは産業用と比べて市場が小さい。それでも、モーター、減速機、制御ソフトといった基本部品は共通である。大手の再編で部品の価格と供給が動けば、日本の介護機器メーカーも調達条件の見直しを迫られる。取引の行方は、介護の現場から遠く見えて、実は部品の値段を通じてつながっている。
ビジネスへの影響
供給元の分散を、今のうちに見直す
ロボットや関連部品を調達している企業は、特定の国や特定の一社に頼っていないかを点検しておきたい。今回のように、買収の成否が地政学で左右される例は今後も増える。主要部品について、代わりの調達先を一つでも確保しておくことが、納期遅れへの現実的な備えになる。
契約書も見直す価値がある。供給元が買収されたときに、価格や保守対応が変わらない条項があるかを確認しておくとよい。
提携や出資の相手は、審査の通りやすさで選ぶ
ロボット事業への出資や提携を考える経営者は、相手の国籍や取引先の構成が審査に与える影響を、早い段階で織り込むべきだ。審査に半年以上かかることもあり、その間に市場環境や資金計画が変わる。
今回の切り離し案は、全部を取れなければ取れる部分だけを確実に取るという発想の例である。最初から地域別に分けて契約できる設計にしておけば、止まったときの損失を小さくできる。介護や福祉の分野で機器の導入を検討する法人も、メーカーの再編リスクを導入判断の一項目に入れておくと安全である。